サステナブルBizガイド

企業が取り組むべきTCFD/TNFDの実務:気候変動リスクと機会の評価・開示戦略

Tags: TCFD, TNFD, 気候変動リスク, 情報開示, サステナビリティ経営

はじめに

企業のサステナビリティ戦略において、気候変動および自然関連のリスクと機会の評価と開示は、ますますその重要性を増しています。特に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)および自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が推奨するフレームワークは、グローバルな開示基準のデファクトスタンダードとなりつつあります。これらの開示要求は、単なる情報公開にとどまらず、企業の戦略、リスク管理、ガバナンス体制の根幹に関わる実務的な対応を求めています。

本稿では、TCFDおよびTNFDの実務対応に焦点を当て、特に実務担当者が直面するであろう課題と、それらに対する評価・開示戦略のポイントを解説します。最新の動向を踏まえつつ、企業がどのように気候・自然関連の情報を収集・分析し、戦略に統合し、効果的に開示していくべきかについて掘り下げます。

TCFD開示の現状と実務課題

TCFDは、気候変動が企業にもたらす財務的な影響について、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの柱に沿った開示を推奨しています。多くの企業がTCFD提言への賛同を表明し、開示を進めていますが、その質や深度にはばらつきが見られます。

TCFD対応における実務課題

実務対応のポイント

TNFD開示の概要とTCFDからの拡張

TCFDが気候変動に焦点を当てているのに対し、TNFDは気候変動以外の自然資本に関わるリスクと機会(生態系、生物多様性、水資源、土地利用など)に焦点を当てた開示フレームワークです。2023年9月に最終提言が公表され、これから多くの企業が対応を始める段階にあります。

TNFDの特徴とTCFDからの拡張点

TNFD対応の実務への影響と準備

TNFD対応は、企業にとって新たな視点でのリスク・機会評価とデータ収集を必要とします。

TNFD対応における実務課題

実務対応のポイント

TCFD/TNFD統合開示と今後の展望

気候変動と自然資本は密接に関連しており、両者を統合的に捉え、開示していく流れが進んでいます。

統合開示の重要性

気候変動は異常気象を引き起こし、それが水資源や生態系に影響を与えるなど、両者は相互に関連しています。また、自然環境の保全や回復は、気候変動の緩和や適応にも貢献します。TCFDとTNFDのフレームワークは整合性が高いため、両者を合わせて開示することで、企業を取り巻く環境関連のリスクと機会をより包括的にステークホルダーに示すことができます。

ISSB等他の基準との連携

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表したIFRS S1(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)およびIFRS S2(気候関連開示)は、TCFD提言をベースとしています。今後、ISSB基準に準拠した開示が義務付けられる国・地域が増えるにつれて、TCFD対応は必須となります。TNFDもISSBとの連携を進めており、将来的に自然関連開示がISSB基準に取り込まれる可能性も示唆されています。これらの国際的な動きを常に把握しておくことが、実務担当者にとって不可欠です。

今後の展望

TCFD/TNFD開示は、単なる報告要件への対応に留まらず、気候変動や自然資本がもたらす変化を経営戦略の中核に位置づけるための契機となります。リスクを機会に変え、持続可能なビジネスモデルを構築していく上で、これらのフレームワークを活用した深い分析と透明性の高い開示が、企業のレジリエンスと競争力強化に繋がるでしょう。実務担当者には、これらの最新動向を捉えつつ、自社の状況に合わせた実践的な対応を進めていくことが求められます。

結論

TCFDおよびTNFDが示す気候・自然関連の財務情報開示は、企業にとって避けて通れない重要な経営課題となっています。これらのフレームワークに基づいたリスク・機会の評価と効果的な開示は、ステークホルダーからの信頼獲得や資金調達の観点からも、企業価値向上に貢献するものです。

実務担当者としては、TCFDで培った経験を活かしつつ、TNFDが求める自然関連の視点を取り入れ、データ収集、リスク・機会評価、シナリオ分析といった各プロセスにおいて、既存の体制やプロセスを強化・拡張していくことが重要です。また、ISSBなどの国際的な開示基準の動向を注視し、将来的な義務化を見据えた準備を進める必要があります。気候変動と自然資本の課題に積極的に向き合い、それを経営戦略と一体化させることで、企業は変化の激しい時代においても持続的に成長していく力を養うことができるでしょう。